不動産担保ローン 知識コラム

運転資金の役割と必要額

2018年6月25日制作

日常的な支払いに用いる「運転資金」は、事業継続に欠かせないものです。運転資金が不足すれば、利益が出ていても倒産する「黒字倒産」に陥ることもありますので、経営が好調な時でもその重要性は変わりません。経営の重要課題ともいえる運転資金について、その役割と用意すべき額についてみていきましょう。

目次

開業時に必要となる運転資金

事業が軌道に乗るまでの資金

事業が「軌道に乗る」とは、一般に、家賃や光熱費といった固定費を毎月支払い、借入金の返済もできる売上が入ってくる状態を指します。事業を立ち上げてすぐに十分な売上が入ってくるならいいのですが、宣伝や口コミ、紹介などを通じて少しずつ知られるようになり、売上が伸びていくものですから、時間がかかることもあるでしょう。軌道に乗るまでの売上が少ない間も、家賃や光熱費の支払いはしなければなりません。こういった時期の支払いにあてる資金として、運転資金が必要になります。

開業時は固定費の3ヶ月分を手元に

事業によって必要な金額は違いますが、開業時に用意しておくべき運転資金額は、固定費として必要な額の3ヶ月分だといわれています。開業直後に十分な売上が安定して入ってくる会社は多くありません。しばらくの間は売上が少ない状態が続き、開業時に用意した運転資金を使いながら経営していくことになります。また、売上があっても、実際に入金されるまでタイムラグがある取引もあります。そういった理由からも3ヶ月分の運転資金を用意する必要があります。

6ヶ月から1年で軌道に乗る計画を

開業後6ヶ月から1年程度で、事業を軌道に乗せることを目指し、必要な運転資金を確保しましょう。開業直後に黒字化させるのは難しいかもしれませんが、いつまでも赤字のままでは用意した資金を減らしていくばかりです。6ヶ月から1年といった期間で事業を軌道に乗せる計画が、融資を受ける際にも求められることが多いようです。

事業が軌道に乗ってからの運転資金

仕入代金の支払いから売上金の入金までに必要な運転資金

運転資金が必要となる大きな理由として、仕入代金の支払いと売上の入金までタイムラグがあることが挙げられます。小売業や飲食業なら日々現金収入がありますので売上が入ってくるタイミングが比較的早いのですが、会社を相手にした取引では、売上金が入金されるのが1ヶ月から数ヶ月先になるのはよくあることです。入金を待つ間にも、売上を立てるために仕入れを続けますので、仕入代金は毎月出ていきます。このタイミングのズレに対応するのが、運転資金の役割のひとつです。

売上が伸びている時の在庫購入のための運転資金

売上が順調に伸びていれば、売上の伸びにあわせて仕入量が増え、仕入代金も増えていきます。売上の増加はビジネスが順調な証拠ですが、仕入代金の支払いと売上金の入金の間に時間的なズレがあるため、資金不足に陥りやすい時期でもあります。売上を伸ばし、事業を成長させていくためにも、十分な運転資金が必要となります。多数の在庫を持つ事業ほど、仕入代金に関する資金繰りが重要です。

運転資金の計算方法「在高方式」

運転資金がいくら必要かを把握することが重要なのは、開業時に限ったことではありません。事業を続けるうえで必要となる「経常運転資金」の額を計算するには、下記の「在高(ありだか)方式」を用います。

経常運転資金=売上債権 《受取手形 + 売掛金》 + 棚卸資産 – 買入債務 《支払手形 + 買掛金》

換金可能な資産(現預金は除外)から、将来支払うことになる額を差し引くことで、経常運転資金額が把握できます。この数字が運転資金として必要な現預金の額です。

5種類の運転資金

既にみたように、運転資金には様々な役割があり、事業の特徴や状況によっても、目的や必要性が変わります。金融機関では、融資の審査の際に運転資金をその性質から5種類に分類することが多いようです。運転資金について理解を深めるための参考にしてください。

経常運転資金

通常の運転資金で、幅広い用途にあてるものです。買掛金や手形の決済、人件費・家賃・光熱費の支払いなど、普段から支払いに用いる資金は「経常運転資金」と呼ばれます。

増加運転資金

売上が伸びれば、それに連動して仕入代金も増加します。業態によっては、水道光熱費や人件費も増加することでしょう。こういった時期において、売上の入金と仕入代金支払いのタイミングのズレに対応するために必要となる資金が「増加運転資金」です。順調に売上が増加している時に必要となります。

減少運転資金

増加運転資金の逆で、売上が減少している時期に用いる運転資金です。売上が減ったからといって、仕入費用は減らせても、家賃や人件費といった固定費はすぐには削減できません。売上減が原因で必要経費の支払いにあてる資金が不足するような場合に用いるのが「減少運転資金」です。

季節運転資金

ある種の食品やアパレルのように、季節性商品の一括仕入に用いるのが「季節運転資金」です。仕入代金だけでなく、従業員への年2回の賞与支払資金もこれにあたります。

設備未払金決済運転資金

導入済みの車両や工作機械などの支払いにあてる資金が「設備未払金決済運転資金」です。このような設備は普通なら資金繰りがついてから導入するものですが、なにか事情があって一部が未払いになっている場合、設備導入から半年が過ぎていると、設備資金ではなく運転資金として扱われます。

まとめ

運転資金は、事業の存続にかかわる血液のように重要なものです。不足すれば、利益が出ていても倒産する可能性があります。開業時は、売上が厳しい時期が続いても事業を継続できるように、必要な運転資金額を試算しておきましょう。自己資金で不足する分は、融資を受けるなどして運転資金をしっかりと手当てしておくことが大切です。事業がスタートしてからも運転資金が不足しないように、手持ち資金を把握し、資金計画を定期的に見直すことが必須です。